Abry, J.-H.(2011), `Politicized Digressions in Manilius', in Green and Volk(edd.), Forgotten Stars: Rediscovering Manilius’ Astronomica, Oxford, 222-234.

マーニーリウス『アストロノミカ』に見られる3つの脱線的挿話が同時代の建築物・記念碑とイデオロギー的に深い関係にあることを論じる研究.すなわち第1巻の銀河とそこに昇った歴史上の偉人たちの列挙はアウグストゥス広場(Forum Augustum)に奉納された将軍たちの記念像と,第3巻で綴られる季節と緯度による日中時間の変化はカンプス・マールティウスに建てられたホーロロギウム(Horologium)と,そして第4巻の地誌描写はアグリッパの「地図」と浅からぬ関係があるとしている.特に三番目の点については確実な立証に成功しているとは言い難いが(アグリッパの「地図」が具体的にどういうものであったか不確かである以上やむを得ない面がある),十分ありうる且つ魅力的な仮説として認めうる.

「私がこの世に生きている限り,そして私の後の世代を継ぐ元首たちも,これらの名士の〈生涯の〉姿を手本とせよと,市民から要請されることを願ったからである」(國原訳,Suet. Aug. 31.2)というアウグストゥスの意向と同じことがマーニーリウスの叙述の意図にも言えるという.
`Roman history, which gave birth to the new imperium over the world, is engraved in the cosmos as it is on earth, in Rome's architecture, and all Romans can meditate on it as they walk along the Forum's galleries or gaze up at the starry sky' (p.228)《世界に亘る新しい「帝国」を誕生せしめたローマの歴史が,地上でローマの建築物におけると同様,宇宙にも刻まれ,ローマ人は皆,フォルムの回廊に沿って歩くときや星空を見上げるときにそれに思いを巡らせることができるのである》

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このことに関して著者は記述をここまでで止めてしまっているが,「刻まれるis engraved」ということで思い当たる面白い点をもう一つ付け加えることができる.実際の語源としては無関係だが,古代に存在した考え方として「天caelum」と「彫刻するcaelare」の関連付けがあり,『アストロノミカ』中にもそれを意識していると思われる個所が見られる(stromateis.info/zib/pdf/Day6F2 の6ページ目).言葉によって歴史上の偉人たちを銀河に彫刻することで,自身の詩に記念碑的性格を持たせているという解釈はこの側面からも補強できる.

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Ariadna

古典という迷宮の誰が辿るとも知れぬ糸
Niceratus Kiotensisが学術,とくに西洋古典文献学関係のメモとか書誌情報とかを細々と記録したりするためのおひとり様インスタンスです……が,卒鳥への動きに伴いもっと自由な運用になってきています.このインスタンスについてもっと詳しく.